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■栄養チューブを外すまで
古田良恵(看護師)
はじめに
近年の日本の医療において、救命治療の進歩は目覚ましい。小児科においてもNICU(新生児集中治療室)の普及に伴い、一昔前では生きることのできなかった子供達も生を得ている。それにより、命は取り止めたものの、障害を持ちながら生きている子供達が増加している。口からものを食べることのできない(摂食機能障害)子供は、鼻から胃にかけて管を通し栄養補給する(経管栄養)、いわば人工的に生を得ているといえる。
我が子は、全く口から食べられず、経管栄養により生きてきた。幸いにも、1才から昭和大学病院の摂食指導を受け、1年間で口から食べられるようになり、栄養チューブを外すことができた。そして、食べることの喜びを感じることができた。食べる喜びは障害のあるなしに関わらず、万人に共通するものである。この事例を通して摂食指導の必要性を考えていきたい。
<事例紹介>
年齢: 生年月日 H6. 2. 22生まれ (第一子)
病名: 子宮内胎児発育不全による低出生体重児
(在胎37週5日・1648g)
発育不全・下顎発育不全
運動及び精神発達遅滞(軽度)
左水腎症
経過
―栄養チューブをつけるまで―
我が子はH6年2月22日、実家のある千葉県内の病院にて
1648gで生まれました。生まれつき下顎の発育が悪く、吸う力の弱い子でした。母乳の出は1回絞ると片方だけで200ml出ましたが、乳首の大きさが子供の口の大きさに合わず直接のませることはできませんでした。そこで、母乳パックに入れて冷凍し、解凍したものを哺乳ビンに移し飲ませました。哺乳瓶の乳首は何度も煮沸消毒を重ね、何人もの赤ちゃんが吸ってきた、使い古しのくびれて柔らかくなった乳首だけが、唯一使用できるものでした。飲み方は、口を開けず、吸い付きも悪いので、口をこじ開け乳首をいれて、哺乳瓶を動かし乳首から少しずつ出てくるミルクを飲み込ませている状態でした。2カ月目、体重の増加が少なかったので、高蛋白ミルクと併用して飲ませました。
4月3日(1カ月)
体重2300gでNICU(新生児集中治療室)を退院。その時にいくつかの乳首を譲ってもらいましたが、すぐにぼろぼろになり使えなくなりました。やむをえず、主人がその病院までもらいに行きましたが、数に限りがあり、後は業者に頼んで買うように勧められました。頼んで買った乳首を何時間も掛けて煮たのですが、使い古しのように柔らかくなりませんでした。
そこで、市販しているものはすべて試しましたが、全く口を動かそうとしませんでした。医師や保健婦に、親が調節してあげられるような哺乳瓶や乳首(口蓋裂用の哺乳瓶)がないかと相談しても、わからないとの返事でした。10ml飲ませるのに1時間以上かかり、1日のミルク摂取量が200〜300ml程度しか飲めません。私は、子供の病気に対してなかなか受容できず、将来の不安に加え日々の授乳との戦いで、かなりのストレスがたまっていました。あまりにも口を動かさないとイライラがつのり、「あんたなんかにミルクあげない!」子供に投げつけそうになったこともありました。主人が帰ってくると、ミルクを飲ませてもらいました。私は、少しでも気分転換がしたかったのです。主人はそれを理解し、いろいろと協力してくれました。
4月22日(2カ月)
体重2400gと体重の増加がなく発育不全でA病院小児科に入院。約1カ月間ただ飲ませるだけの、哺乳練習を行ったのですが、全く効果ありません。顎を動かし哺乳を促す運動や刺激方法がないかと聞くと、ここでは行っていないとの返事だけでした。
6月(4ヶ月)
約1ヶ月間体重2850gが続き、ミルク摂取量も増えず尿量も1日100mlを切る状態が続きました。主治医は「お母さんが神経質だから子供が微妙に受けとめて飲まないんだ。」と言い、生命維持のため経管栄養を行うことを決めました。哺乳練習も継続して行いましたが、一度楽して満腹感を得た子供は口から摂取するのを全く拒否しました。乳首を口に入れると両手を振るわせ大泣きしました。
練習を続けていたある日、風邪から喘息発作・心臓発作を起こし、危篤状態となりました。なんとか回復したものの、それをきっかけに全面的経管栄養に切り替えました。主治医からは「これが運命なんだから受けとめなさい。」と言われるだけでした。
自宅での栄養チューブの管理や交換は、夫婦で行うようにしました。そして、毎日の入浴の度に左右交換しました。
―栄養チューブ抜去への最初の試み―
栄養チューブをつけたものの、どうしても人間らしく口から味わわせてあげたいと、毎日願いました。そして栄養チューブを外したいという私の気持ちを理解してくれ、さらに、子供の発育、発達、栄養面など全体を通して診てくれる医師はいないかと探しました。A病院の婦長・主任が今までの主治医とのやりとりに悩んでいたことや、私の気持ちを理解してくれ、千葉県M病院新生児科T医師に相談するように勧めてくれました。
10月(8ヶ月)
初めてM病院を受診しました。T医師は「早く栄養チューブを取りたい、栄養チューブは子供のためにならない。現在、栄養過剰の状態であり、体がむくんでいる。このまま放っておいたら命を落としていた。」と話してくれました。私は、これまでの悩みが解決する、やっと、私と子供を理解してくれる医師に巡り会えたと胸を撫で下ろしました。そして、諸検査を兼ねて、摂食練習のため約2週間入院することになりました。昼間は栄養チューブを外し口からミルクとペーストをあげ、夜になるとチューブを挿入しミルクの補給を行いました。主治医は、「話しかけを大切にし、一口あげたらほめてください。お母さんが美味しそうに食べているのを見せるのも必要です。」と指導してくれました。とはいうものの、スプーンを近づけただけで首を振り、口から中にいれても押し出してしまう。看護婦から「無理強いで飲み込んだのをきっかけに食べられるようになった子もいる。」というのを聞き、無理強いに拍車がかかりました。50ml注射器にゴム管をつけてペーストを入れ、喉の奥に注入し、喉にたまった刺激で飲み込ませました。しかし、疲労と食事の度ごとに泣きわめく子供を見て、私はかなりイライラしていました。なにかの刺激で嘔吐すると。「何でカエルみたいにケロケロ吐くの!あんたがミルク飲まないからこうして入院しているんだからね!」と怒鳴りつけることも度々ありました。子供は私に抱かれるのをだんだん怖がるようになりました。無理をさせたことが原因で気管支炎を起こし、経口摂取を中止し、病状が回復後、栄養チューブがとれないまま退院しました。M病院の受診をきっかけに、以前かかっていたA病院への通院をやめ、成長発達上の相談は、T医師を主治医と決め、緊急時は近くのT病院を受診することにしました。
年が明け、冬の寒い間は風邪から気管支炎を繰り返しました。また、痰や鼻汁が多く吸引が出来ずむずがるので、自宅で吸引器を購入し、1日5〜6回は鼻から吸引しました。そして、体調が良くなる春まで摂食練習を行うことができませんでした。
生まれつきミルクを飲ませるとゲップをしないうちにすぐ吐く子供でした。また、長期間栄養チューブを挿入していると食道と胃の間が弛緩する(食道―噴門括約筋不全)による胃食道逆流現象を起こし、嘔吐に悩まされました。そこで、100ml注入するのに点滴のような道具を使って1時間半以上かけましたがそれでも1日3〜4回は嘔吐しました。腸の働きに関しては、食物繊維を十分いれられないためか、1日2〜3回の下痢が続いていました。また、体調が狂うと、嘔吐・下痢がひどくなり脱水症状を起こし入退院を繰り返しました。
―昭和大学病院小児科摂食指導外来への通院―
春になり体調も整い、再び栄養チューブを外すことを考えました。そして、T医師より昭和大学病院小児科摂食指導外来の受診を勧められました。
3月25日(1歳1カ月 1回目)
初めて昭和大学病院を受診しました。昭和大学歯学部口腔衛生学教室教授、金子芳洋先生から、頬部(ほっぺた)及び口腔内の過敏症状が強い。まず、この過敏症状をとらなければ食物を受けつけることはできない。たとえば、腕時計や指輪を初めてつけた時は気になってしょうがないことがある。これが過敏症状である。しかし、長期間付けていると付けているのを忘れてしまう。過敏を取る方法は、親があぐらをかいてその上に子供をむこう向きに座らせ、後ろからしっかり頬部に触れる。決して撫でてはいけない。これを1日3〜5回行う。最初は嫌がるだろう。でも、しばらくすると抵抗が弱まる。そうしたら手を離す。声をかけながらスキンシップの中で行う。指しゃぶり、おもちゃしゃぶりはどんどんさせる。歯ブラシをしゃぶらせるのも良い(脱感作療法)。機嫌の良いときはSUD型スプーン(平らに仕上げてある特殊な形)でペースト状の食べ物を下唇にくっつける。脱感作療法及び食事については、信頼感の成立している両親のみ行い、どんなに近くにいる祖父母でも行ってはいけない、と指導されました。また、口鼻周囲に対する嫌なことはなるべく避けること、母親は一番側ににいる存在なので、怖い存在になってはならない。口鼻周囲の処置はできれば父親がするようにと指導されました。また、毎日していたチューブ交換を週1回にするように、テープは鼻とチューブにぐるぐる巻き付けていたのを頬部に一枚止めるように、テープは昭和大学病院で使用していた粘着力があり、肌に優しいホギバンテープに変えました。そして、吸引に対しても鼻の表面だけを吸える器具(プレザーオリーブ)を使用するようにと、譲って頂きました。
この指導により、なぜ子供が食べるのを嫌がるか初めて理解できました。また、隣で指導を受けていた子供は、我が子よりも障害が強く首の座らない子供でしたが、ペースト状の食べ物を上手に食べていました。羨ましそうに見ていると金子先生は「この子も1年前来た時は栄養チューブが入って全く食べることができなかったんだよ。いつかは必ずこうなるから。」と話してくれました。今まで挫折感ばかり味わっていた私はやっと支えができたような安堵感を感じ、勇気づけられる思いがしました。金子先生のこのことばを信じて頑張ろうと思いました。
帰宅し、頬部を触れる訓練が始まりました。少し触れただけで子供は嫌がりのけぞり逃げようとしました。不安を持ちながらも先生に言われた通り、1日3〜5回歌を歌いながら触りました。すると2週間近くで嫌がらなくなりました。しかし、食物に関してはペーストを見ただけで手を払いのけて嫌がりました。
4月11日再診(2回目)
頬部の過敏症状はとれた。頬部を触れる訓練を続けながら鼻と上唇の間を触れる訓練を行う。まだ、上手にお座りがきないため首まで背もたれのある椅子に座らせて食べさせてみる。スプーンを横向きにして下唇に当てて水分をあげる、との指導でした。
鼻と下唇を触る訓練は、少し触っただけですごく嫌がり手を外そうと逃げていました。また、スプーンは近づけるだけで手を払いのけて嫌がりました。いけないとわかってながらも無理強いして泣かせる時もありました。あまりにも嫌がるのが続くと、この子は出来ないんだと思い、訓練をする意欲が弱まりました。
4月25日再診(1歳2ヶ月・3回目)
多少嫌がっても1日1回はスプーンであげる練習をするように。でも、無理強いしないように。ペーストで嫌がるときは水分で試してみるように、と指導を受けました。やはり、スプーンを近づけると嫌がりました。
5月9日(再診)(4回目)
棒付きキャンディー・アイスキャンディー等自分でもてる甘いもの、冷たいものを渡して見る。スプーンは根気強くやってみよう、との指導でした。
冷たい物・甘い物はあまり好きではないようでした。ひと舐めしてすぐおもちゃにされました。そこで、さきイカをあげると、柔らかくなるまでしゃぶっていました。
6月初旬、やっとスプーン内の牛乳をなめ、吸い付く動作が見られました。1さじ0.5mlを多いときで15mlぐらい飲みました。「根気強く」という言葉を信じて良かったと言えるひと時でした。しかし、子供が飲もうとする意欲があったので、牛乳を流し込もうとし、ついスプーンを口の中にいれてしまい、むせさせてしまう時もありました。
6月13日再診(1歳3ヶ月・5回目)
嚥下(飲み込む)動作が出来ていない。口が開いているときに水分を流し込むとむせてしまう。必ず、口が閉じている時にスプーンを下唇にあてるように、との指導でした。私がむせることがあると話す前に、金子先生にすでに見抜かれていました。
7月11日再診(6回目)
ペーストより牛乳を好むなら、しばらくこのまま続けるように。
8月はじめ(1歳5ヶ月)、嘔吐、発熱による、脱水症状にて近医に入院。入院直後より絶食状態となりました。そのためか、私が食事をしているのを見ると、急に欲しがり怒りだしました。お腹が空き食べたがったのです。主治医の許可を頂き、その時にあったホワイトソースを口に入れると、もっとくれと怒りだし10口以上たべました。消化不良を起こさないか心配しながらも、うれしく涙があふれてきました。それをきっかけに、ポテトサラダ・ホワイトソース・レバーペーストを食べさせました。たくさん食べた時で1日80g食べることが出来ました。
8月27日再診(7回目)
与えている食物の粒がザラザラし、その一粒が大きい。まだ、口の中で処理できない状態である。このままでは食べるのを拒否してしまうだろう、もっと粒が小さくサラサラした物が良い、と指導されました。
9月に入り、粒の大きさなどには気をつけていましたが、これぐらい食べられるだろうと言う過信から無理強いをしたのと、風邪を引いて体調を崩したことが重なり、親があげようとするペースト類の摂食を再び嫌がるようになりました。しかし、ジュース・牛乳などの水分をスプーンで飲んだり、缶ジュースの縁にのこっているわずかの量を飲むことは出来ました。また、かっぱえびせんを好み、よく口に入れていました。まだ口の中にいれても、咀しゃく(噛む動作)出来ず、唾液で溶かしているだけでした。嚥下動作が出来ていないのに、自分でたくさん口に頬張り、飲み込もうとせず、オェーとしていました。私は、自分でつくって与えるペースト類の摂食を子供が急に嫌がるようになったのを見てがっかりしました。そして、食事を作り食べさせる意欲を失っていきました。
9月26日再診(1歳7ヶ月・8回目)
金子先生は、少し食べられるようになってから急に食べられなくなるのはよくあること。しかし、水分を飲むのは上手になっている。すべてが元に戻ったわけではない。そんなに落胆せずに1日1回は頑張ってペースト類を試すようにと励ましてくれました。
10月に入り季節の変わり目で体調を崩したのか、摂食量がゼロの日が続きました。
11月7日再診(1歳8ヶ月・9回目)
この時、子供は食べる意欲がなく、フロアーを動き回り落ちつきが全くありません。金子先生から、口腔内にまた過敏症状が残っているかもしれない。ガムラビング{口の中を上下左右4つに分けて、1/4づつ行う。人差し指の腹の部分を歯と歯肉との境目に置き、前歯から奥歯に向かってこする。この時小帯の上をこすると痛いので注意する。指でこするのは前歯から奥歯に運ぶときだけで、戻ってくるときはこすらないで、指を軽く浮かす。この時大切な点は素早く(1秒に2往復位の速さで)リズミカルに指を動かす。毎食前各部位を10回ぐらいづつ行う。“もしもしカメよ…”のリズムに合わせて行う。との指導がありました。
指を口に入れると拒否され強い力で噛まれました。この拒否も2週間程度でなくなり、“もしもし…”と私が歌うと自分で指を口に入れ歯茎を撫でるようにもなりました。
―栄養チューブ抜去への再度の試み―
12月(1歳9ヶ月)
M病院受診。T医師より「子供自体がチューブ栄養に頼りすぎている。お腹が空くと親が注入してくれるのを持っている。親に対しても依存心が強い。依存するのを諦め、お腹が空いたら自分で食べるという自然な流れを持たせたい。親から離し、絶食状態において、お腹を空かせて自分から欲しがるのを待つのはどうか。知的レベルも模倣が始まり、マネをして自分で食べるかもしれない。思い切って、栄養チューブを外すために入院させてみては?」と勧められました。確かに、今年の8月に入院し絶食した時、お腹が空いて食べてくれたので、入院させてみるだけの価値があるかもしれない。でも、今まで子供に何度も無理をさせて失敗したので、私たち両親が、これが栄養チューブを外す最後のチャンスだと決めつけたら子供がかわいそうだから気軽にやっていこう、と思いました。
12月22日 昭和大学病院受診
(1歳10ヶ月・10回目)
T先生に言われた件を話しました。すると、「確かに年齢が増せば増すほどチューブ栄養に依存する傾向が強くなる。しかし、この子は過敏症状も取れ、嚥下できる能力があるのに食べようとする意欲がない。精神発達においても模倣するようになったので、心身共に栄養チューブをはずせるだけの条件が整った。空腹にして、食べる意欲を引き出し栄養チューブを外そう。小児科の医師の元で体の状態を見ながらチューブを外す必要があるので入院が前提となる。年明けにも、うちで入院しますか?」との返答があり、栄養チューブを外すための入院が決まりました。
1月、一人で立ち、すぐに一人歩きが始まりました。自立心が旺盛な子でなんでも自分でしたがる様になりました。しかし、食べることに関しては、相変わらず進みません。
しかし、私たちが、コップ等で飲み物を飲んでいると、欲しがって「ちょうだい」と言わんばかりに怒り、2〜3口飲みました。そして、かっぱえびせんを欲しがり自分でもって食べました。
1月半ば、風邪から気管支炎を起こし近医に入院しました。点滴治療をしていたので、入院先の主治医に栄養チューブを外すための入院が控えていることを話し、水分が足りているなら昼間はお腹を空かせて様子を見たいと話しました。そして、主治医の管理のもと、昼間は注入せず食事を勧めました。そこで、口の中にいれたとき、粒が残らず、溶けてしまうよう調理した、うらごしのお芋や、卵の黄身のうらごししたものを少しのお湯で薄めてペースト状にしたものを頼みました。しかし、刻み野菜を煮詰めた物等がでました。これでは、口の中に繊維が残り処理できません。何度か看護婦さんを通じて栄養士に相談したのですが、なかなか子供に合った、食形態が出ません。そこで、サンドイッチのポテトをつぶしたり、カレーパンのカレーの部分をつぶしてあげることもありました。それでも、お腹が空く頃を見計らって、私が何かを食べると、欲しいと言うように怒りだし、口を開けて食べるのです。食べた量は多くて4〜5口(10g程度)でしたが、栄養チューブ抜去入院への前準備としての手応えを感じました。食べたいと言っても、とても体を維持するだけの量はないので、病状が回復後点滴を外したと同時に昼間の注入を開始しました。もちろん食べる意欲が再びなくなりました。体調も良くなり1月後半に退院しました。退院後も全く食べようとはしませんでした。
2月9日(1歳11ヶ月)
昭和大学病院小児科に入院。小児科の医師が担当となり、体重管理、摂食状態、体調等細かく管理してくれることになりました。主治医からは、約2週間程度経過を見るという説明でした。入院時の体重は6500g。入院当初から点滴を打ち栄養チューブを抜去しました。
病院は完全看護で子供達の日常の世話は8人の保母さんが当たっていました。食事時間は保母さんが介助し、動ける子供達全
員が食卓を囲みます。主治医や保母さんから子供が食べても食べなくても必ず10分は座らせてみると話してくれました。
1日目 : 座らせても落ちつきがなく、すぐに動こうとしました。口にスプーンを近付けるだけですごく嫌がりました。
2日目 : スポイトであげると5〜6口飲みました。
3日目 : ペースト類を5〜6口食べました。
4日目 : 点滴も精神的ストレスとなるので抜去しました。
5日目 :
朝から39℃の発熱がありましたが朝食時にスプーン・コップを使い牛乳400ml飲みました。そして、採血しても異常がなかったので点滴をせず様子を見ることにしました。
6日目 :
熱が下がり、体調も良く、ペースト1皿食べました。食べ終わるのに1時間半かかりました。その間子供が席を動こうとしませんでした。空腹感を覚え食べる意欲が出てきたのです。また、真似で自分でスプーンを持つようになりました。まだ、上手に口に入れられないので、ボロボロこぼしながら食べていました。体重5800g(-700g)でした。
10日過ぎると、ぎょうざ・肉じゃが・ハンバーグのペーストが大好きと、食べ物の好みが出てきたようです。副食は、必ず3皿ありましたが、すべての物を勧めても、気に入った1皿だけを1度に食べるのです。そして、次のお皿を勧めると前に食べていた空っぽのお皿を睨み付けて怒りました。主食は、お粥のペーストより、食パンを好んで食べていました。そこで、主食は食パンにし、副食のペーストに浸して食べさせました。食べる時間は3皿で1時間程度と短縮していきました。また、お煎餅類も真似して食べるようになりました。そこで、夜間空腹時の補食に赤ちゃん煎餅を食べさせました。また、水分を飲むときは、コップやストローを使えるようになりました。「茶」「べい(煎餅)」と単語を話し、食物を欲しがるようにもなりました。
2月27日(入院より19日目)
体重5850g(-650g)と増加はありませんでしたが、食欲があり体の状態がよいので、退院となりました。退院時、栄養士からペーストの作り方や、必要カロリー等の栄養指導を受けて帰りました。
―退院から現在まで―
2月29日(満2歳)
風邪から脱水症状を起こし、近医に入院。入院中やはり本人好みの食形態が出ず、食欲が落ちてきました。
3月3日
症状が落ちつき退院。退院後も食欲がなく、ペーストを作っても食べようとしません。1日で牛乳を100ml・ヨーグルト1/2個・食パン1/4個程度しか食べてくれません。栄養分が取れないので、体力がなくなったのか寝たきり状態となり、座ることすら出来なくなりました。
私は、自分のエゴで栄養チューブを外したのか、この子には無理だったのか、これで良かったのか等いろいろ悩んでしまいました。やせ細りしわしわの体になっても、私に微笑みかける子供の笑顔を見ると、どうしていいのかわからず、切なくなり涙があふれてきました。
3月5日
昭和大学病院小児科の主治医に電話相談し、8日小児科外来に受診しました。体重5600g(-840g)でした。主治医から、栄養状態はあまり良くないが、現在病棟では感染症の入院が多いので、今入院すると病気をもらい、大変なことになるから家で頑張るように、その代わり2日に1度の状態を細かく電話連絡するようにとの指示がありました。
数日間、摂取量が少なくいろいろ調理しても食べてくれません。ペーストより大人と同じものを欲しがるのですが、噛み切れません。私は主治医との連絡を取りながらもパニック状態になっていきました。
3月13日
市販されているベビーフードのスパッゲティミートソースを食べさせました。そうすると、1品80gをペロリとたいらげてくれました。また、ハンバーグを軽くミキサーにかけてトロミをつけると美味しそうに食べました。それからしばらくスパゲッティとハンバーグの繰り返しの日々が続きました。その後、里芋のにものを好んで食べるようになりました。主食はパンに何かのソースを浸して食べさせましたが、御飯類は嫌がりました。
3月下旬、必要カロリーが取れるようになったのか、次第に元気を取り戻し、遊んだり歩くことが出来るようになりました。
3月26日(2際1ヶ月)
退院後初めて摂食指導外来受診です。ミートソースにパンを浸して食べさせました。自分でスプーンを使い一気に食べたのです。金子先生は、「ここまでくると大丈夫、よく頑張った。お母さんの熱意があったからここまでこれたんだよ。」と、言葉をかけてくれました。4月に入り、カレーのなかに様々な野菜をいれることで野菜類の摂取が出来るようになりました。
4月10日再診(退院後2回目)
丸呑み込みの時もあるが、舌先を使って喉の奥の方まで送り込んでいる。また、初期の咀しゃくのような状態が出来るようになった。まだトロミのついたものが適当である。与えている一口の大きさが大きい。しかし、舌先で物の処理できているので上手に飲み込めている。食べるに当たってこれからが大切な時期、6週間に1回は顔を見せるように、と指導されました。
5月になり、大人が食べているチャーハンを欲しがり食べさせてみると、喜んで食べました。それをきっかけに、混ぜ御飯・カレーライス等の御飯類がメニューに加わりました。
5月14日再診(退院後3回目)
トロミがある物がまだ食べやすいが生野菜やかみきれない肉以外は本人が好む物をなんでも試して良いと許可が出ました。
6月(2歳3ヶ月)、体重6150g。ギョウザ・ワカサギフライ・一口ハンバーグ・うどん・ラーメン等食べやすい物は大人と同じ物を食べられるようになりました。スプーンの使い方が上手になり、一人で食べられるようになりました。注入していた頃、あれ程嘔吐していたのが嘘のようになくなりました。また、便も固くなり自分で力むことを覚えました。風邪を引いてもすぐ回復するようになりました。言語発達面では、食べられるようになるまでは10単語しか話せなかったのが、40単語以上話せるようになりました。
7月9日再診(退院後4回目)
金子先生の前で、茹でたトウモロコシを上手にかじり取り食べました。また、カレーライスを美味しそうに食べました。金子先生は、舌先にある物を上手に奥歯に回して食べている。もう、何も言うことはない。「今日で卒業です。よく頑張りました」と声を掛けてくれました。
現在、子供と一緒の食卓の時間。かみ切れない物以外は家族と同じ物を食べています。数カ月前まで夢見た食卓の団欒の時間があります。食べることに新しい発見があると、「金子先生に見せたいね」が我が家の口癖です。そして今現在。栄養チューブをつけているお子さんの中にも、いつかはこの幸せを味わって頂ける日がくることを信じます。
考察
―なぜ人間に食べることが必要でしょうか―
現代の医療は水準が高く、生命維持に必要な数々の技術を持っています。その中に口から食べられなければ栄養チューブを利用することも含まれています。当然生命維持に必要なカロリーが摂取できるので、様々な障害を持っていてもいわゆる「健康」な状態と見なされるようです。しかし、それが本来の健康な姿なのか、私の体験を通した我が子の全身像を捕らえ、考えたいと思います。
まず、口から食べることの利点を生理的に考えたいと思います。人間は血糖値が下がると空腹感を感じ、何かを食べたいと思います。食物が口腔内に入り咀嚼すると唾液が分泌され消化を助けます。胃の中では消化液が分泌され胃腸の動きが活発となり、食べ物を受け入れる準備ができます。ところが、我が子の場合は、咀しゃくできないので唾液・消化液の分泌が少ないところにいきなり食物が胃に送られます。準備もできていない胃は急に膨らみ活動しなくてははらないので、当然、胃はパニックを起こします。胃の処理しかねた分は嘔吐につながります。胃の働きに合わせて時間を掛けて注入するといつでも胃の中に食物が停滞している状態です。したがって血糖値はいつも一定しているため空腹感を感じません。そこに、次の注入時刻がやってきます。結局、悪循環の繰り返しとなります。また、繊維質の摂取できないので、腸に刺激が与えられずいつも下痢のような状態が続きました。体調を崩すとよけいに胃腸の動きが悪化し、嘔吐・下痢が頻繁となり脱水症状を併発しました。それが、食べられるようになり、空腹感を覚え、自分からお腹が空いたと訴えるようになりました。咀しゃく・嚥下できるので消化活動が活発になります。100ml注入するにに1時間半以上掛けても嘔吐していた子が、今では、喉が渇くと2〜3分で100mlの水分を飲めます。短時間で必要カロリーを摂取し、満腹感が理解できるようになりました。繊維質を摂取出来るので、便性が固くなり自分で力んで排便することを覚えました。体調を見ても、嘔吐・下痢がなくなったためか、脱水症状を起こすことも無くなりました。多少の風邪症状があってもすぐ回復するようになりました。
次に、精神発達から考えたいと思います。顎は頭蓋骨内にあります。顎の運動(咀嚼)は脳に直接刺激を加え、脳の動きを活発化させます。乳児期に指しゃぶりやおもちゃを口に入れることで物の大きさを覚える等の知能の発達に大きな影響を与えます。また、食べる機能と話す機能とは密接な関係があります。食物を捕らえ、舌で物を押しつぶし、嚥下する動作を繰り返すことで発音の基礎が出来ます。すなわち、食べることができなければ喋ることができないとも言われています。
我が子の場合、食べられるようになり、話す単語が数倍も増えました。単語の中に熱い・酸っぱい・辛い・冷たい等の感覚を表現する言葉が増えたのは、上記を裏づける物です。また、遊びにおいても応用力が付いてきました。
次に生活のリズムから考えていきたいと思います。我が子の場合、栄養チューブ挿入時は日中の半分が注入時間でした。そのため、外に出る時間も少なく、いつもダラダラした生活パターンで過ごしていました。それが、今では時刻を見ながら食事を食べています。外に出て散歩をする等のリズムが出来ました。またそれが新しい外部の刺激に触れる機会となりました。
―なぜ摂食指導が必要でしょうか―
哺乳力が弱いことを補う目的や誤嚥の危険があるからと、栄養チューブを付けることは、現在一般的に行われています。しかし、現在よく耳にする生活の質(QOL)の点から考えるとどうでしょうか。口から食べることは人間の本能の欲求です。親の立場では口から食物を食べ、味わい美味しいと感じて欲しいと思うのが自然です。
昭和大学病院に通院するまで私は、なぜ子供が食べられないのか理解できずに、ただ口から食べさせたいと願い、自己流でいろいろ行いました。無理に食べさせ成功したと聞くとそれにすがりつきました。そして、無理やり食べ物を口の中へ押し込みました。子供は私を怖い存在だと思っていたでしょう。それなのに私は、子供が拒否をすればするほど子供を叱りつけました。結局子供に負担をかけ、誤嚥から気管支炎を起こさせる原因になってしまいました。適切な指導を受けて、はじめて私が全く正反対のことをしていたのに気が付きました。人は健康であれば、出生と同時に
おっぱいを飲む哺乳反射と呼ばれる原始反射により口を動かし、授乳が成立します。この授乳動作や、口元を触ったり、おもちゃ等をなめたりする経験を通して、食べ物を受け入れる準備ができます。しかし、障害のある子供の場合は、自分で思うように手を動かせず、顔や手に触れ得る経験が極端に少ないため、受け入れる準備ができず、過敏症状が起こります。それにより、顔や体に触れられることに過敏に反応してしまいます。その敏感な場所に授乳練習と称し、口の中に異物をいれられると、痛み等でパニック状態になります。これでは子供は余計拒否をするのです。
過敏症状を取る第一原則はスキンシップです。過敏症状がひどい場合には体中どこを触られるだけでも反応する場合があります。この場合は体の外側(足の裏)から少しずつ中心に向かって触れていくのが効果があると言われています。子供に与える食物についてもただ小さければ良いのではなく、その時々の子供の状態に応じて微妙に変化していきます。今どの段階でどの様に調理をしたら良いか栄養士を含めた指導を受けることが大切です。食べるときの姿勢には、首が座らなかったり、坐位の保持ができない場合、どうしても首が後ろに反り、首の筋肉が緊張します。私たちが食べる姿勢は、知らず知らず首を下げて緊張を取っています。気が付かないうちにリラックスした状態を作っているのです。背もたれ等を使い、この状態を作るのが大切です。
摂食機能障害は、脳性麻痺・精神発達遅滞などの基礎疾患そのものが起因しています。しかし、それを助長している要因が問題となってきます。要因には食環境(食形態・介助方法の不適)・育児環境(口を使う環境の不適)・知的障害(覚えるのが苦手)・肢体不自由(動かす経験が乏しい)・形態(口腔)の異常などが挙げられます。
また、子供はたえず成長、発達をしていく存在です。そこで、摂食指導には医療、栄養、保育、訓練などに関係する全ての職種がチームを組み、アプローチしていく必要があるのです。全ての職種による一貫した目的意識と方法でその子供に接する事は、指導を受ける側にとっても、人による指導の違いに混乱を生じる危険性を減らす事が出来ます。これを自分の体験に置き換えると、家で食べている形態と近医に入院した時の形態の違いで悩みました。そこで、看護婦・栄養士に相談したが思うように出来ずに困った事例も無くなります。摂食訓練は1〜2年は軽くかかると言われています。指導を受けながら、毎日の訓練・食事は家庭で行われます。その中で、様々な不安や問題を抱えます。それに対する、専門家の細やかな指導や励ましを受けることで継続する意欲につながります。
終わりに
障害を持ちながら生きている子供達も一般の人と同様に食べることは生きる希望であり楽しみです。
児童憲章10条に「すべての児童は、身体が不自由な場合、または、精神の機能が不十分な場合に適切な治療と教育と保護が与えられる」とかかれています。「摂食機能療法」は生きるための基本的欲求を満たす指導であり、食べる機能に問題のあるすべての子供に必要である。地域差を作ってはならないと思います。
我が子の体験を通して、口から食べることの素晴らしさを学び、そして、摂食機能療法がいかに必要な指導か改めて感じることができました。
<参考資料>
長期の経管栄養法によって起こる弊害
・体の変化
味覚刺激がない→味蕾数の低下→味覚の鈍麻
咀嚼刺激がない→歯肉炎、喪失歯の増加、咀嚼筋の低下→発語の不明瞭化 →表現意欲の低下
※咀嚼動作は通常1000〜4000回/日位行っている。
嚥下刺激がない→嚥下反射機能の低下、ムセや嘔吐の反射能力の低下
※嚥下動作は通常600回/日(唾液のみの嚥下を含む)位行っている。
| 口内消化が行われない | →唾液の減少→口内衛生状態の低下→感染症への易感 |
| →胃腸での消化力の低下 |
| →発語抑制 |
いつでも一定の血糖値状態→空腹感がない、食べる意欲が湧かない、満腹の満足感がない
| 食物が通過しない | →食道-噴門括約筋不全→嘔吐の増加 |
| →腸上皮化成→感染症罹患率上昇 |
| →過敏箇所の増加 |
| 食物素材の制限 | →便秘→投薬や浣腸による他律排便 |
| →下痢→脱水、体重低下 |
| →微量栄養素の欠乏→代謝能力や免疫機能の低下、味覚低下 |
チューブによる炎症→痛み、不快感→生きる意欲の低下→免疫力の低下
・心の変化
親、介護者への依存心の増加→自尊心の低下、自立摂食の意欲の低下
異様な食事風景→生きる意欲の低下
・生活の変化
| 動ける時間が少ない | →筋力の低下→寝たきり |
| →刺激の低下→精神活動の低下 |
・人間関係の変化
| 本人 : | 介護者への全面依存→生きる意欲の低下 |
| 介護者: | 介護者のストレスの増加 |
| 注入に時間がとられる |
| チューブ交換への不安感 |
| 流動食の購入資金 |
| 流動食の調理:何を作ったら良いのか。 |
| 栄養、衛生、手間 |
| 他の家族や周囲への配慮が減る、遠慮が増える |
<トピックス>
・我が息子は
・栄養チューブをはずすまで(現在表示中のページ)
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